
「うちでも広告を回せるようになりたいんです」
打ち合わせでこう言われたとき、代理店の立場としては本来うれしくない話です。内製化が進めば、こちらの手数料は消えます。
それでも去年からこの相談が増えました。理由を聞くと、行き着く先はだいたい同じ。代理店に任せているが何をしているか分からない。担当が変わるたびに説明し直している。自社の商売を一番知っているのは自分たちなのに、その知識が広告に反映されない。
仙台の不用品回収会社で、実際に社内の担当者を育てている案件があります。7月に始めて、9月時点で担当者が自分でランディングページを作り、公開まで持っていけるところまで来ました。その進め方を月単位で書きます。
最初にやるのは、管理画面を触ることではない
管理画面はまだ開きません。先に要るのは、数字を毎日見る習慣のほう。
内製化というと、まず広告の管理画面の使い方を覚える話になりがちです。入札単価、マッチタイプ、除外キーワード。覚えることは山ほどあります。
ただ、操作を覚えても数字の意味が分からなければ、何を変えていいか判断できません。順番が逆です。
この案件では、毎朝8時に3つの数字が自動で届く仕組みを先に作りました。前日の配信費、問い合わせ件数、問い合わせ1件あたりの広告費。これだけです。
1か月ほど毎朝見ていると、パターンが見えてきます。月曜の朝は問い合わせが多い。雨の日は減る。月末に配信費が伸びる。この感覚が先にあると、あとで管理画面を開いたときに「なぜこの数字なのか」を自分で説明できるようになります。
数字を見る習慣がつかない会社は、この段階で止まる。そして止まったまま内製化を進めても、うまくいきません。
7月|GitHubとVercelで、1ページ公開するところから
最初に作ったのは、見出しが1行あるだけの真っ白なページでした。
いきなりLPは作りません。インターネットに1枚出す、それだけ。
この案件の担当者は、もともとWebの経験がある方ではありませんでした。だから最初の目標は「自分の手でページを公開する」に置きました。見出しが1つあるだけのページでいい。
使ったのはGitHubとVercelです。どちらも無料で始められて、ファイルを置けばURLが発行される。ここで体験してほしかったのは、技術そのものではなく「自分が書いたものが、数十秒後に世界中から見える」という感覚でした。
この感覚があると、あとの話が速くなります。文言を1つ直すのに代理店へ依頼して3日待つ、という状態から抜けられる。
7月はここだけで終わっています。焦らせても身につかない。
8月|広告の数字を読んで、自分の仮説を言えるようにする
読み方は教えていません。代わりに、こちらの判断の理由を毎回そのまま話しました。
週1回1〜2時間の打ち合わせで、その週に自分が何をどう判断したかを全部開きます。「このキーワードを止めたのは、30日で表示が400回あって問い合わせが0だったから」「この広告文を残したのは、クリック率が他より1.5倍高いから」。
判断の根拠をそのまま渡していく形です。手順だけ渡すと、状況が変わったときに応用が効きません。
そのうえで、同じ資料を見ながら相手に仮説を言ってもらいます。最初は外れます。外れたときに「なぜそう考えたか」を聞くと、どこの理解が足りないかが分かる。そこを次の週に補います。
ここで扱ったのは、実際に動いている自社のアカウントです。練習用のデータではありません。自分の会社の問い合わせが増えたり減ったりする画面だから、真剣に見る。
9月|自分でLPを作り、計測まで入れる
2か月で、担当者が山形向けのランディングページを自作するところまで来ました。
内容はこちらがレビューしますが、作るのは本人です。テキストを書き、画像を置き、スマホで確認して直す。この過程で「なぜ料金を上のほうに出すのか」「なぜ電話とLINEとフォームを画面の下に常に出すのか」という設計の理由が、体に入ります。
あわせて3つ入れました。
- Microsoft Clarity(ヒートマップと録画。どこまで読まれたかが見える)
- Resendでのフォーム送信(問い合わせが自社のメールに届く)
- Gitでの変更管理(何をいつ変えたかが残る)
3つめが地味に大きい。変更履歴が残っていれば、数字が動いたときに「先週何を変えたか」を後から確認できる。代理店に任せていると、ここがブラックボックスになりがちです。
9月15日の広告公開に向けて、ドメイン、フォーム、計測を誰が担当するかを分けて進めています。全部を1人で抱えないほうが、結果的に早い。
引き継いだアカウントで、最初に見る3か所
品質スコアが0か1で並んでいました。前の年は7から8あったアカウントです。管理画面を開いた最初の5分で、やることが決まりました。
内製化を始めるということは、たいてい誰かからアカウントを引き継ぐということでもあります。この案件も、2025年10月に前任の代理店から運用を引き取るところから始まりました。
開いて最初に見たのは、次の3つ。
主要キーワードが動いているか
「不用品回収」「仙台 不用品回収」といった、一番買う気のある人が打つ言葉。ここが止まっていました。配信はされているのに、肝心の入口が閉じている状態です。
止める理由があったのかもしれない。単価が高いから、という判断はありえます。ただ引き継ぎの資料にその記録はなく、なぜ止まったのかは誰にも分かりませんでした。
品質スコアが去年と比べてどうか
品質スコアは、検索語と広告文とLPがどれだけ噛み合っているかをGoogleが10段階で評価したものです。低いと、同じ順位を取るのに余計にお金がかかります。
前年の同じ時期は7から8。それが0から1まで落ちていました。ここまで落ちると、入札を上げても表示されにくくなります。
戻すのに時間がかかるのも、この指標の面倒なところ。キーワードを復旧しても、学習が回り直すまで2〜3週間、スコアが戻るまでは数か月かかります。そう先に伝えたうえで作業しました。
広告グループに違うニーズが混ざっていないか
「不用品回収」という大きなグループに、回収も買取も家電もゴミ屋敷も全部入っていました。
検索する人の目的が違えば、見たい広告文も飛び先も変わります。ひとまとめにすると、広告文がどれにも当てはまらない薄いものになる。これが品質スコアを下げていた直接の原因でした。
3月末から4月にかけて、需要ごとに分け直しています。繁忙期の真ん中で大きく動かすと数字が荒れるので、時期を選びました。
内製化の観点で言うと、この作業が一番の教材になります。自社のアカウントで何が起きていたかを一緒に見ると、「なぜグループを分けるのか」「なぜ品質スコアを気にするのか」が、教科書の説明より速く入ります。
内製化して浮くお金と、代わりにかかるもの
月10万円。配信費が50万円で手数料20%なら、こうなります。年間だと120万円。
数字だけ見れば、内製化して浮く金額は大きい。ただ、そのぶん人件費と時間が代わりに乗ります。
代わりに発生するものを並べます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 担当者の時間 | 週5〜10時間。慣れるまではもっとかかる |
| 学習の期間 | 成果が落ちない状態まで半年前後 |
| 伴走の費用 | 外部の支援を入れるなら、その分 |
| 失敗の授業料 | 設定ミスで無駄になる配信費 |
4つめを軽く見ないほうがいい。マッチタイプの設定を1つ間違えるだけで、関係のない検索に広告が出て、数万円が数日で溶けます。これは誰でも通る道で、通らずに覚える方法はありません。
だから「浮いた手数料がそのまま利益になる」とは考えないでください。実際には、手数料の半分くらいが社内コストに置き換わるくらいの感覚が近い。
それでも内製化する価値があるのは、お金より速さと蓄積のほうです。文言を直すのに3日待たなくていい。現場で聞いたお客さんの言葉を、その日のうちに広告文に入れられる。そして担当者が辞めない限り、知識は社内に残ります。
代理店の選び方そのもので迷っている場合は、Google広告の代理店の選び方に判断の観点をまとめています。
向いている会社と、そうでない会社
分かれ目は1つだけ。担当者を1人決められるかどうかです。
内製化がうまくいかない典型は、複数人が片手間で見る形です。営業の合間に社長が触り、手が空いたときに事務の方が見る。これだと判断の根拠が共有されず、先月なぜその設定にしたのかが誰にも分からなくなります。
専任である必要はありません。他の業務と兼任でいい。ただ「広告の数字はこの人が見る」と決まっていることが前提です。
もう1つ、規模の目安があります。
逆に、配信費が月50万円を超えていて、商品やサービスの説明が難しいものを扱っているなら、内製化する意味があります。自社の人間しか知らない言葉が、広告文に入るようになるからです。
不用品回収の案件で言うと、「ゴミ屋敷」という検索をする人は状況が切迫していて、一般の不用品回収の説明を読んでいる余裕がない。この感覚は、現場に出ている人のほうが正確に分かっています。
CONTACT
広告の内製化を考えていますか?
いきなり全部を引き継ぐのではなく、数字の見方から順に社内へ移していきます。運用を続けながら並行して進めるので、成果を落とさずに移行できます。
ご相談は無料です。そのまま依頼しなくても大丈夫です。
全部を一度に引き継がない
移す順番があります。
一気に全部を渡すと、たいてい数字が落ちます。落ちると社内で「やっぱり外注に戻そう」という話になり、半年の投資が無駄になる。
この案件では、山形の運用と内製化支援をこちらが持ったまま、仙台側を少しずつ移しています。運用を止めずに、教える部分だけ並行して進める形です。
移す順番の目安はこうです。
- 数字を毎日見る(最初の1か月)
- 広告文の差し替えを自分でやる
- 除外キーワードの追加を自分で判断する
- LPの文言修正を自分で反映する
- 入札と予算配分を触る
- 新しいキャンペーンをゼロから作る
上から順に、失敗したときの損害が小さいものになっています。最後の2つは影響が大きいので、半年経ってからで遅くない。
広告運用でよくある失敗は別の記事にまとめてあります。内製化を始める前に一度目を通しておくと、同じ穴に落ちずに済みます。
半年後に見るもの
「自分でLPを作って公開し、広告の数字を読んで改善案を出せる」。これが最初に置いた目標でした。
達成できたかどうかは、月の報告書の中身で分かります。数字が並んでいるだけなら、まだ読めていない。「先月はここが落ちた、原因はこれだと思うので来月これを試す」と書けるようになっていれば、内製化は成立しています。
もう1つ見るのは、こちらへの質問の質です。最初は「どこをクリックすればいいですか」でした。いまは「このキーワードを完全一致に変えたいが、フレーズ一致も残すべきか」と聞かれます。操作の質問から判断の相談に変わったら、順調。
内製化は、代理店を切ることが目的ではありません。自分の商売を自分の言葉で広告に出せるようにすることです。その状態になってから、外部をどう使うかを決めればいい。
地方での広告運用の考え方はこちらの記事にまとめています。商圏が限られている場合は、そもそもの設計が変わります。
よくある質問
- Q. 広告運用の内製化は何から始めればいいですか?
- 管理画面の操作ではなく、数字を毎日見る習慣から始めます。実際の案件では、配信費・問い合わせ数・CPAの3つを毎朝自動で通知する仕組みを先に作りました。数字の上下に理由をつけられるようになってから、入札や広告文を触ります。
- Q. 広告運用の内製化にはどれくらい期間がかかりますか?
- 週1回1〜2時間の伴走で、半年が目安です。実案件では7月にGitHubとVercelで1ページを公開するところから始め、9月には担当者が自分でLPを作り、ヒートマップの導入とフォーム送信の実装まで進みました。
- Q. 内製化すると代理店に払っていた手数料は浮きますか?
- 手数料は浮きますが、社内の人件費と学習の時間が代わりにかかります。担当者が週に5〜10時間を広告に使えるかどうかが分かれ目です。時間を確保できない会社が内製化すると、運用が止まって数字が落ちます。
- Q. 内製化に向いていない会社はどんな会社ですか?
- 担当者を1人決められない会社です。複数人で片手間に見る形にすると、判断の根拠が共有されず、前任者が何をしたか分からなくなります。専任でなくてもいいので、広告の数字に責任を持つ人を1人決められることが前提になります。
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