地方自治体によるSNS活用は、今や住民サービスの重要な柱の一つとなっています。しかし、限られた人員・予算・専門知識の中で、どのように効果的な運用を実現すればよいのでしょうか?
総務省の2024年調査によると、全国の自治体の約92%がいずれかのSNSプラットフォームを活用していますが、その多くが「運用リソースの不足」「専門知識の欠如」「効果測定の難しさ」を課題として挙げています。
本記事では、これらの課題を乗り越え、実際に成果を出している全国の自治体の事例を踏まえながら、少ないリソースでも効果を最大化できるSNS運用の具体的手法を解説します。
地方自治体におけるSNS活用は、この数年で飛躍的に広がりを見せています。住民への迅速な情報発信、地域の魅力発信によるシティプロモーション、そして双方向コミュニケーションの実現など、その活用目的は多岐にわたります。
項目 | 2020年 | 2023年 | 2025年(予測) |
---|---|---|---|
SNS活用自治体の割合 | 76% | 92% | 98% |
Instagram活用率 | 32% | 67% | 85% |
YouTube活用率 | 41% | 78% | 90% |
専任担当者の設置率 | 12% | 21% | 35% |
出典:総務省「地方自治体のICT利活用に関する調査」(2024年)および当社独自調査
多くの自治体では、SNS運用を広報担当者の業務の一部として位置づけており、専任担当者の配置は約20%にとどまっています。兼務による時間不足が質の高いコンテンツ制作や定期的な投稿の障壁になっています。
プラットフォームごとの特性理解、効果的なコンテンツ作成、データ分析など、SNS運用に必要な専門知識を持つ職員が少なく、外部研修の機会も限られています。
フォロワー数やいいね数以外の指標設定や、SNS運用と自治体KPI(移住者増加、イベント参加数など)との相関性の把握に課題を抱えています。
公的機関としての発信責任、個人情報保護、危機管理時の対応など、民間企業とは異なる厳格なリスク管理が求められています。
「地方自治体のSNS運用における最大の課題は、SNSをただの情報発信ツールと捉えている点です。真価を発揮するには、住民との対話ツールとして双方向コミュニケーションに活用することが重要です。限られたリソースを言い訳にするのではなく、明確な目的と戦略に基づいた運用設計が必要です。」
- 地域情報化アドバイザー 佐藤誠一
こうした課題を抱えながらも、創意工夫によって効果的なSNS運用を実現している自治体が増えてきています。次のセクションでは、そうした成功事例から学ぶべきポイントを見ていきましょう。
限られたリソースの中でも、創意工夫によって高い効果を上げている自治体のSNS運用事例を紹介します。それぞれの事例から、何が成功の鍵となったのかを分析します。
人口約5,000人の小規模自治体ながら、移住促進と地域ブランディングに特化したInstagram運用で、年間移住相談数を前年比300%増を達成。
Twitter、Instagram、YouTube、TikTokを組み合わせた統合的SNS戦略で、災害情報から観光振興まで幅広い情報発信を効率的に実現。
10-20代向けの区政情報発信チャンネルとして、TikTokとInstagramを活用。若者の区政参画率を1年で15%向上させた。
成功している自治体は、「認知拡大」「エンゲージメント向上」といった曖昧な目標ではなく、「移住相談数」「イベント参加者数」などの具体的指標を設定している。
行政からの一方的な情報発信ではなく、住民や地域の事業者を巻き込んだコンテンツ制作により、リソース不足を補いながら多様な視点を取り入れている。
担当者変更や予算変動に左右されない、シンプルで再現性の高い運用フローとテンプレート化を実現している。
各SNSの特性を深く理解し、伝えるべき内容や対象者に合わせたプラットフォーム選定と最適化を行っている。
これらの成功事例からわかるように、自治体のSNS運用で重要なのは高度なテクニックや多額の予算ではなく、明確な目的設定と継続的な運用体制の構築です。次のセクションでは、これらの成功事例を踏まえた具体的な戦略を紹介します。
地方自治体における人員・予算・専門知識の制約を踏まえた上で、効果的なSNS運用を実現するための具体的な戦略を解説します。
漠然と「SNSで情報発信する」という目標ではなく、具体的な行動目標と数値目標を設定することが第一歩です。
フォロワー数や「いいね」数はKPIとして設定すべきですが、それだけでなく実際の住民行動に紐づく指標も設定しましょう。
自治体には既に多くの情報資源が存在します。これらを効率的に再構成し、SNS向けに最適化することで、少ない工数で質の高いコンテンツを生み出せます。
あるプラットフォームで作成したコンテンツは、異なるプラットフォーム向けにフォーマットを変更して再利用しましょう。
地域住民や事業者が生成するコンテンツ(UGC)を活用することで、担当者の負担軽減と多様なコンテンツ確保が同時に実現できます。
UGCを活用する際は、事前に利用許諾の取得方法や著作権の扱いなどをルール化しておきましょう。
テンプレート化と計画的な運用設計により、担当者変更や多忙期でも一定品質のコンテンツを安定して発信できる体制を構築します。
無料のスケジューリングツールを活用して、事前に投稿を予約しておくことで、繁忙期でも投稿が途切れる心配がありません。
各部署が持つ情報・コンテンツを効率的に集約する仕組みを作ることで、少ない担当者でも多様なコンテンツを確保できます。
各部署で実施するイベントや取り組みを事前に共有する仕組みを作ると、SNSネタを計画的に確保できます。
予算制約がある中でも、無料または低コストのツールを活用することで、効率的かつ魅力的なSNS運用が可能になります。
AIツールも積極的に活用し、文章校正、画像生成、アイデア出しなどの効率化を図りましょう。
担当者が変わっても一定の品質を維持できるよう、マニュアル整備と持続可能な運用体制の構築が重要です。
職員の世代交代や人事異動を見据え、SNSノウハウを組織的に蓄積・共有する仕組みを構築しましょう。
これらの戦略は、必ずしもすべてを一度に実施する必要はありません。自治体の状況や課題に合わせて優先度を設定し、段階的に導入していくことが重要です。次のセクションでは、具体的なプラットフォーム選定と特性理解について解説します。
各SNSプラットフォームにはそれぞれ特性があり、伝えたい内容や目的に応じて適切に選定・活用することが重要です。自治体の多くがリソース不足に悩む中、すべてのプラットフォームを同時に運用することは現実的ではありません。
まずは自治体の状況や目的に合わせて優先順位をつけ、効果的に運用できるプラットフォームから始めることをおすすめします。
プラットフォーム | 特性と強み | 自治体での活用目的 | 運用難易度 |
---|---|---|---|
Twitter (X) |
|
| 比較的低い |
|
| 中程度 | |
|
| 比較的低い | |
YouTube |
|
| やや高い |
TikTok |
|
| やや高い |
LINE |
|
| 中程度 |
「何となくTikTokを始めたい」ではなく、「若年層への移住促進情報発信」など明確な目的を先に設定し、それに最適なプラットフォームを選定します。複数の目的がある場合は、最も重要な目的を優先しましょう。
伝えたい相手がどのSNSを利用しているかを基準に選びます。例えば子育て層向けの情報はInstagramが、シニア層向けはFacebookが効果的な場合が多いでしょう。
動画編集スキルやデザイン力が必要なプラットフォームは、それに見合うリソースが確保できるかを考慮します。特にTikTokやYouTubeは制作工数が大きいため、人員や予算との兼ね合いで判断しましょう。
全国平均のSNS利用率だけでなく、可能であれば住民アンケートなどで地域特有のSNS利用傾向を把握した上で選定することが望ましいでしょう。
優先度高:Twitter、LINE
迅速性と到達率の高さを重視した組み合わせ。緊急時にリアルタイムで情報を届けることが可能。
優先度高:Instagram、YouTube
視覚的な魅力発信と詳細情報提供を組み合わせ、地域の魅力を多角的にアピール可能。
優先度高:TikTok、Instagram
Z世代・若年層の利用率が高いプラットフォームを組み合わせ、若者の興味を引く内容発信が可能。
優先度高:Facebook、LINE
詳細な情報発信と確実な到達を重視したプラットフォームの組み合わせ。地域コミュニティの形成にも有効。
プラットフォームの選定後は、各SNSの特性を理解し、それぞれに最適化したコンテンツ制作と運用が重要です。特に複数のSNSを運用する場合は、同じ内容をそのまま配信するのではなく、各プラットフォームの特性に合わせた調整が効果を高めます。次のセクションでは、自治体に適したコンテンツ戦略について解説します。