コロナ禍を経て大きく変化した飲食業界。いま成功している店舗には明確な共通点があります。それは「戦略的なマーケティング」の実践です。
「開店当初は来客数も多かったのに、最近は客足が遠のいている…」 「SNSを始めたけど、思うような成果が出ない…」 「周辺に競合店が増えて、差別化が難しくなってきた…」
こんな悩みを抱える飲食店オーナーは少なくありません。実は、多くの飲食店が「感覚」や「経験」だけに頼ったマーケティングを行っていることが大きな課題です。データに基づいた戦略的なアプローチがなければ、せっかくの努力も空回りしてしまいます。
私はこれまで50店舗以上の飲食店のマーケティングに携わってきました。その経験から言えるのは、成功する店舗と停滞する店舗の差は「体系的な戦略の有無」にあるということ。このブログでは、飲食店が実践すべき効果的なマーケティング戦略を、具体例とともに解説していきます。
多くの飲食店が広告やSNSなど「戦術」レベルの施策からマーケティングを始めてしまいます。しかし最初に取り組むべきは、もっと根本的な「戦略」レベルの設計です。ここでは、まずマーケティングの土台となる3つの要素について解説します。
「誰にでも愛される店」を目指すことは、実は「誰からも選ばれない店」になるリスクを高めます。成功している飲食店は例外なく、明確なターゲット顧客を設定しています。
曖昧な設定(避けるべき)
「30〜50代の男女」「美味しい料理を求める人」
具体的な設定(理想的)
「30代前半の共働き夫婦。時間に追われる日常の中で、特別な日には質の高い体験と料理を求めている」「健康志向が高く、食材の産地や調理法にこだわる35〜45歳の女性。SNS発信も積極的に行う」
私が支援したある和食店では、ターゲットを「食にこだわりを持つ30代後半〜40代のビジネスパーソン」に絞り込んだことで、メニュー構成からインテリア、接客サービスまでが一貫し、客単価が1.5倍に向上しました。ターゲットを絞ることは、一部の顧客を失うことではなく、特定の顧客からの強い支持を得ることなのです。
競合店が多い中で埋もれないためには、明確な「立ち位置」が必要です。あなたの店舗が顧客にとってどんな存在か、競合と比べてどこに優位性があるのかを明確にしましょう。
「最高品質の素材と伝統技法にこだわるプレミアム和食」「本場の味を手頃な価格で提供する親しみやすいエスニック料理」など、料理のスタイルや特徴による差別化
「料理人との会話も楽しめる臨場感あるカウンター席が特徴」「家族全員で楽しめるインタラクティブな食体験を提供」など、店内体験による差別化
「サステナブルな地産地消を実践するエシカルレストラン」「職人技を次世代に伝える伝統と革新の懐石料理」など、理念や価値観による差別化
「忙しいビジネスパーソンに15分以内で提供する高品質ランチ」「アレルギー対応に特化した安心して食べられる専門店」など、顧客の悩みを解決する差別化
例えば、ある寿司店は「気軽に楽しめる高級店」というポジションを確立するため、ランチタイムは手頃な価格のセットメニュー、ディナーは本格的なおまかせコースを提供。このシンプルな戦略により、幅広い客層を取り込みながらも、高級店というブランドイメージを維持することに成功しました。
飲食店の価値は「料理」だけではありません。顧客が店舗を知ってから、来店、食事、会計、そして帰宅後までの「体験全体」をデザインすることが重要です。
認知フェーズ
SNS・口コミ・検索
予約フェーズ
サイト・電話対応
来店フェーズ
入店・着席案内
飲食フェーズ
注文・提供・食事
事後フェーズ
会計・帰店後
各フェーズで顧客が何を求め、何に不満を感じるかを分析し、一貫した体験を提供することが重要です。特に「最初の印象」と「最後の印象」は記憶に残りやすいため、重点的に設計しましょう。
あるカフェでは、来店時にスタッフが顧客の名前を覚え、2回目以降の来店で名前で挨拶するという単純な施策を導入。この「認識されている」という体験が顧客満足度を大きく向上させ、リピート率が40%向上しました。顧客体験は細部に宿ります。
Key Point
これら3つの要素「ターゲット設定」「ポジショニング」「顧客体験設計」は、マーケティング戦略の基盤です。これらが明確になってはじめて、SNS運用や広告出稿などの「戦術」が効果を発揮します。
基本的な戦略が固まったら、次は具体的な集客施策を実行していきましょう。ここでは、費用対効果が高く、すぐに始められる施策を紹介します。
現在、飲食店への集客で最も重要なプラットフォームと言えるのが「Googleビジネスプロフィール(旧Googleマイビジネス)」です。実際、ある調査では消費者の70%以上が飲食店を探す際に「Google検索」や「Googleマップ」を利用すると回答しています。
高品質な写真を定期的に追加
店内の雰囲気、料理、スタッフの様子など様々な角度から撮影した写真をアップロード。毎週最低1枚は新しい写真を追加しましょう。
投稿機能を活用
新メニュー情報、イベント、特別プロモーションなどを定期的に投稿。検索ユーザーの目に留まりやすくなります。
レビューへの返信
良いレビューも悪いレビューも、すべて24時間以内に返信。特に悪いレビューこそ丁寧に対応することで、潜在顧客の印象が大きく変わります。
Q&A機能の活用
よくある質問と回答を事前に自分で投稿しておくことで、検索ユーザーの疑問を解消し、来店の決め手になります。
営業情報の正確な更新
営業時間、定休日、特別営業日などを常に最新の状態に保つことで、顧客のストレスを軽減します。
私が支援したあるラーメン店では、Googleビジネスプロフィールの最適化により、3ヶ月で検索表示回数が45%増加、クリック数が60%増加、そして実際の来店数が25%向上しました。無料で取り組める施策の中では、最も効果が高いと言えるでしょう。
飲食店のSNSといえば「Instagram」が王道です。視覚的に魅力を伝えられる点が、料理店との相性が良いのです。しかし、ただ料理の写真を投稿するだけでは効果は限定的。戦略的な運用が必要です。
商品写真、調理過程、特別な食材など
店内装飾、スタッフの様子、イベントなど
食材の仕入れ風景、シェフの思い、開業秘話など
キャンペーン、期間限定メニュー、クーポンなど
超ローカルタグ(3〜5個)
#渋谷カフェ #表参道ランチ #二子玉川ディナー など
ジャンルタグ(3〜5個)
#イタリアン #パスタ #ワイン好き など
ムードタグ(2〜3個)
#デートにおすすめ #女子会 #記念日ディナー など
オリジナルタグ(1個)
#あなたの店名 - 顧客の投稿にも使ってもらうことで拡散につながる
インスタグラムでは「定期投稿」よりも「質の高い不定期投稿」の方が効果的です。週に2〜3回、しっかり準備した質の高い投稿を行うことで、エンゲージメント率が向上します。また、ストーリーズ機能を活用して日常的な雰囲気を伝えることも重要です。
毎日同じアングルで撮影した寿司ネタの写真を投稿。フォロワー数は停滞し、エンゲージメント率は1%未満。
コンテンツの多様化を実施:
結果:6ヶ月でフォロワー数が3.8倍に増加、エンゲージメント率5.2%を達成。Instagram経由の来店が全体の22%を占めるようになった。
飲食店にとって「地域」との関係性構築は、安定した集客につながる重要な要素です。首都圏の店舗でも、実は来店客の70%以上が店舗から2km圏内に住む顧客という調査結果もあります。
施策 | 内容 | メリット | 初期コスト |
---|---|---|---|
地域イベント参加 | 地域の祭りやマルシェに出店 | 地域住民との直接的な接点を創出 | 中(5〜10万円) |
地域企業とのコラボ | 近隣店舗や企業と相互送客の仕組み構築 | 新規顧客獲得コストの低減 | 低(〜3万円) |
ご近所割引 | 徒歩圏内の住民向け特別メニューや割引 | 平日や閑散時間帯の集客力向上 | 低(〜3万円) |
地元食材の活用 | 地元生産者との連携によるメニュー開発 | 差別化とストーリー性の付加 | 中〜高(調達コスト) |
地域メディア活用 | 地域情報誌やローカルFMなどへの出演 | 地域内での認知度向上 | 低〜中(0〜5万円) |
私が支援した地方の洋食店では、地元農家と連携した「〇〇町産野菜フェア」を定期開催することで、地域メディアに取り上げられる機会が増加。その結果、平日ランチの客数が1.4倍に増加しました。低予算で始められる地域密着施策は、長期的な顧客基盤構築に効果的です。
新規客を集めるだけでなく、既存顧客の再来店を促す「リピーター戦略」は、マーケティングコストを抑えながら売上を安定させる鍵となります。実際、新規顧客の獲得コストはリピーターの維持コストの5〜10倍とも言われています。
顧客の好みや来店履歴を記録し、パーソナライズされたサービスを提供。何度も訪れる価値を創出する。
会員限定の特典やポイント制度を導入し、再来店のインセンティブを提供する。
季節限定メニューや定期的な新商品開発により、顧客の「また来たい」という気持ちを喚起する。
食事会、ワークショップ、試食会など、通常とは異なる体験を提供し、コミュニティ感を醸成する。
料理や店舗の背景にあるストーリーを伝えることで、顧客との感情的なつながりを構築し、単なる「食事の場所」以上の価値を提供する。
ある居酒屋チェーンでは、顧客データベースとLINE公式アカウントを連携させた独自のリピーター戦略を展開しました。
単に「ポイントをためる」だけの仕組みではなく、「特別感」や「パーソナライズされた体験」を提供することで、顧客のロイヤルティを高めることに成功しました。
このようなリピーター戦略は、初期投資は必要ですが、長期的に見れば非常に費用対効果の高い施策です。既存顧客の再来店率が10%向上するだけで、多くの飲食店では売上が20〜30%増加すると言われています。
お客様情報の収集から始める
まずは基本的な顧客情報(名前、メールアドレス、誕生日など)の収集の仕組みを作りましょう。紙のアンケートでも、デジタルでも構いません。
コミュニケーションチャネルの確立
LINE公式アカウントやメールマガジンなど、継続的にコミュニケーションできるチャネルを1つ選び、集中的に育てましょう。
顧客体験の「特別な瞬間」を設計
誕生日特典や、来店回数に応じた特典など、顧客が「特別扱いされている」と感じられる体験を少なくとも1つは設計しましょう。
データ分析と改善の繰り返し
どのお客様がどのくらいの頻度で来店しているか、どのメニューを好んでいるかなどを分析し、施策を継続的に改善していきましょう。
Key Point
リピーター獲得において最も重要なのは「一貫性」です。一度始めたら継続的に運用し、顧客との関係性を徐々に深めていくことが成功の鍵となります。
マーケティングは一朝一夕で成果が出るものではありません。しかし、正しい順序で着実に進めることで、確実に成果につなげることができます。この記事で解説した内容を整理すると、以下の流れで進めるのが効果的です。
基盤づくり(1〜2週間)
デジタルプレゼンスの最適化(1ヶ月)
集客施策の実行(2〜3ヶ月)
リピーター獲得の仕組み構築(3〜6ヶ月)
分析と改善の継続(常時)
飲食店のマーケティングは、単発のキャンペーンや広告よりも、こうした体系的なアプローチが重要です。全ての施策を一度に始める必要はありません。できることから少しずつ取り組み、継続的に改善していくことが、長期的な成功につながります。
最後に、マーケティングはあくまで「手段」であり「目的」ではありません。どんなに優れた施策も、料理の品質や接客の質が伴わなければ意味がありません。マーケティングと商品・サービス品質の両輪がそろってこそ、飲食店は持続的な成長を実現できるのです。
Stellariumでは、飲食店に特化したマーケティングコンサルティングを提供しています。50店舗以上の成功実績をもとに、あなたの店舗に最適な戦略をご提案します。