
「うちの野菜、本当はおいしいのに、どうやって伝えればいいか分からない」
直売所や市場に出しているだけだと、作った人の顔も、育て方のこだわりも、買う人には届きません。値段だけで比べられて終わる。
ここでは農家の集客と宣伝を、SNSで知ってもらうところから、直売所やネットショップで買ってもらうところまで、1本の流れとして書きます。数字や制度の話は、農林水産省と消費者庁、Googleの公式の資料で確かめたものだけにしました。
農家の集客は、どこで売るかで変わる
64.3%。2020年農林業センサスで、農産物の販売金額1位の出荷先が農協だった農業経営体の割合です。1位が「消費者に直接販売」の経営体は1割に届いていません(農林水産省「2020年農林業センサス結果の概要」)。
農協や市場に出すなら、集客はほとんど要らない。代わりに値段は自分で決められません。集客が必要になるのは、直接売る割合を増やしたいときです。
直接売ると言っても、売り方で集客のやり方が違います。
| 売り方 | 来てほしい人 | 集客で使うもの |
|---|---|---|
| 直売所・マルシェ | 近所の人、週末に出かける家族 | Googleマップ、Facebook、チラシ |
| 観光農園・収穫体験 | 車で1〜2時間圏の家族連れ | Googleマップ、Instagram |
| ネット直販・定期便 | 全国の、作り手で選ぶ人 | Instagram、ネットショップ |
| 飲食店・小売店への直接取引 | 地元のお店のオーナー | 知り合いの紹介、Instagram |
ネットで全国に売るのと、週末の収穫体験に人を呼ぶのとでは、投稿する中身も、見てほしい人も違う。まずどの売り方を伸ばしたいかを1つ決めます。
野菜をネットで買う人は、どんな言葉で探しているか
ネットで売るなら、買う人がGoogleで何と打っているかを先に見ておきます。2026年9月28日に、Google広告のキーワードプランナーで調べました(日本・日本語のGoogle検索、月の平均の検索数)。
並べてみて、分かったことが3つあります。
1つ目。買う人は「農家」とはあまり打ちません。「産直 野菜」は月1,900回、「野菜 通販」は1,300回。これに対して「農家 直販」は110回でした。「サツマイモ 通販」1,000回、「トウモロコシ 通販」720回のように、品目の名前に「通販」を付けて探しています。ネットショップの商品名やページの見出し、Instagramのプロフィールには、品目の名前と「通販」「産地直送」のような言葉を入れておくと、探している人の言葉とそろいます。
2つ目。米だけは違いました。「米 農家 直販」は590回で、「農家 直販」だけの5倍あります。米は作り手を決めて買う人が多いのだと読めます。米を作っているなら、名前と顔を出す発信がそのまま検索の言葉に合っています。
3つ目。「野菜 定期 便」は、入札単価の目安が85〜326円と高めでした。広告で取り合われている言葉です。定期便を広告だけで売ろうとすると、大きな宅配サービスと同じ場所で競うことになる。1回買ってくれた人に次の旬を知らせるほうが、農家の定期便には向いています。
売る側の「農家 集客」は月10回、「農家 sns」は30回。この記事を探してたどり着く方は、実は少数派です。
農家のSNS活用、どれを選ぶか
全部やる必要はない。作っているものと、自分が続けられる形で選びます。
| SNS | 向いていること | 続けやすい人 |
|---|---|---|
| 収穫物と畑の風景を写真と短い動画で見せる | 写真を撮るのが苦にならない | |
| 地域の告知、常連を集めたグループ | 直売会や体験イベントをやる | |
| TikTok | 農作業の様子を短い動画で見せる | 動画を撮って話すのが苦にならない |
| X | 出荷や入荷の情報を短く出す | 文章のほうが早い |
| YouTube | 栽培の方法をじっくり説明する | 説明が得意 |
迷ったらInstagramです。野菜や果物は写真で伝わりやすく、ネットショップへのリンクも置けます。
直売会や収穫体験の告知が中心なら、Facebookのグループも役に立ちます。買ってくれた人をグループに集めておくと、次の告知を届けたいときに毎回探さずに済む。
2つ以上を同時に回すと、たいてい続きません。1つを3か月続けて、余裕が出てから足してください。
フォロワーが少ないうちは、投稿しても見てくれる人が限られます。収穫の時期だけ、近くの市町村や興味の近い人に広告で投稿を届ける方法もある。広告は1日や期間の予算を自分で決めて出すもので、決まった料金表はありません。仕組みはインスタ広告の費用に書いています。まずは広告なしで、どんな投稿に反応があるかを見てから考えれば十分です。
SNSで宣伝するとき、何を投稿するか
「毎日同じ畑の写真で、飽きられないか」
農家の方からよく聞く心配です。実際には、畑を見たことがない人にとっては、毎日の変化がそのまま読み物になります。
| 投稿の種類 | 中身 | 売上とのつながり |
|---|---|---|
| 育つ途中 | 種まき、芽が出た、花が咲いた | 収穫の時期を予告できる |
| 収穫の日 | 今日とれたもの、箱詰めの様子 | 注文の案内と一緒に出せる |
| 食べ方 | 簡単な料理、保存のしかた | 買ったあとの不安が減る |
| 作り手 | 家族、失敗した年、天気との付き合い | 名前で選ばれるようになる |
| 買える場所 | 直売所の日程、ネットショップの在庫 | そのまま注文につながる |
とくに効くのは「食べ方」と「買える場所」です。珍しい品種ほど、どう食べればいいか分からずに買うのをやめる人がいる。
写真は、朝のやわらかい光で撮るときれいに写ります。日が高くなる前の畑で、土や葉が入る距離から。毎回同じ明るさと色味で撮ると、一覧で見たときに誰のアカウントかが分かります。
農薬の使い方を書くときは、言葉に気をつけてください。有機JASマークが付いていない農産物に「有機」「オーガニック」と表示するのは法律で禁じられています(農林水産省「有機食品の検査認証制度」)。「無農薬」「減農薬」も、国の特別栽培農産物に係る表示ガイドラインで表示してはいけない言葉とされ、「農薬 栽培期間中不使用」のように書くよう決められている。投稿の文章も宣伝なので、同じ言葉づかいにそろえておきます。
SNSを続けるのが難しいと感じる理由は、SNS運用が難しいと感じる理由にまとめています。
直売所や観光農園は、Googleマップにも載せる
SNSを見ない人も、行き先は地図で調べる。
直売所、観光農園、農家レストランのように、お客さまが訪ねてくる場所があるなら、Googleビジネスプロフィールに登録できます。Googleのビジネス情報のガイドラインは、登録できるのを「顧客が訪れることのできる実在の店舗や拠点」などに限っているので、ネット販売だけの農家は対象外です。
いちご狩りやぶどう狩りのように季節で開く農園は、ガイドラインに書き方が決まっています。営業している季節は通常の営業時間を入れ、オフシーズンは臨時休業のマークを付ける。再開するときは営業時間を入れ直します。
冬に開いているように見えると、無駄足になった人が低い評価を付けることがある。季節の切り替えは、カレンダーに入れておいてください。
SNSからネット販売・直販につなげる
いいねは付くのに、注文が入らない。
たいていは、見た人が買う場所までたどり着けていない。プロフィールに注文先が書かれていない、注文をDMで受けていて返事が1日遅れる。興味を持った人は、そこで離れます。
プロフィールに買い方を1行書く
プロフィールを見た人が、何を作っていて、どこで買えるかをすぐ分かる状態にします。
- 何を作っているか(品目と産地)
- 買える場所(ネットショップのリンク、直売所の住所と曜日)
- 注文の締め切りや発送の時期
注文をDMで受けるのは、最初の数件ならそれで構いません。件数が増えると、住所の聞き漏れや入金の確認で手が止まります。そうなったら、ネットショップに移す時期。
ネットで売るなら、特定商取引法の表示を先に
ネットで注文を受けるのは、特定商取引法の通信販売に当たります。消費者庁の特定商取引法ガイドに、広告に表示が必要な事項が並んでいました。
- 販売価格と送料
- 代金の支払いの時期と方法
- 商品の引き渡しの時期
- 申し込みの撤回や解除、返品に関すること
- 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号
表示する内容も決まっていて、事実と大きく違うことや、実際よりよく見せて誤認させる表示は、同じ法律で誇大広告として禁じられています。
生鮮品は返品を受けられないことが多いので、返品の条件は先に書いておきます。傷みがあった場合にどうするかも決めておくと、問い合わせのたびに迷わずに済む。袋詰めした野菜の表示のルールは、消費者庁の食品表示のページから確かめられます。
自宅の住所を出したくないとき
農家の方からよく聞く心配がこれです。自宅と畑が同じ場所にあると、住所を出すことに抵抗がある。
消費者庁のガイドには、お客さまから請求があれば遅滞なく提供すると広告に書き、実際に請求があったら出せる準備をしていれば、表示事項の一部を省略できると書かれています。ここでの「遅滞なく」は、申し込むかどうかを決める前に、十分な時間の余裕をもって渡せることを指します。省略できるかどうかは、ガイドの条件を読んで判断してください。
送料と定期便は、ネットショップ側で決める
野菜や果物のネット販売で悩むのは送料です。冷蔵で送るもの、重い箱、地域ごとの差。Shopifyで売る場合の設定のしかたは、Shopifyの送料設定にクール便を分ける手順まで書いています。
地域の分け方の例として、私が記事用に作ったShopifyの検証ストア(コーヒー豆と焼き菓子の店)の送料を載せておきます。「本州・四国・九州」は600円で5,000円以上なら無料、「北海道・沖縄」は1,200円で5,000円以上なら600円。地域を2つに分け、それぞれに「いくら以上なら安くする」の線を1本引いただけです。野菜の箱なら、ここにクール便の分が乗る。送料を足すと商品代に対して重く見えるので、送料無料になる金額に届く箱の組み方を、商品ページで先に見せておきます。
旬の野菜を毎月届ける定期便は、農家と相性のいい売り方です。お客さまは選ぶ手間がなく、農家は収穫の量に合わせて箱を組める。始め方はShopifyの定期購入にまとめました。
買ってくれた人に、次の旬を知らせる
1回買ってくれた人に、次の収穫の時期を知らせる。直販の売上が安定するのは、この2回目の注文からです。
ただ、宣伝のメールは、お客さまの承諾なしに送ってはいけません。特定商取引法ガイドにも、承諾のない広告メールの送信は原則禁止と書かれています。注文のときに、お知らせを受け取るかどうかを選んでもらう欄を作っておく。Shopifyなら、その設定のしかたをShopifyのメルマガにまとめました。
ネットショップを作ったあと、どこから人を連れてくるかはECサイトの集客方法で、SNS以外の経路も含めて順番を書いています。
CONTACT
農産物のネット販売、相談してみませんか?
SNSでの発信から、ネットショップの立ち上げ、送料や定期便の設定まで。売り方に合わせてお手伝いします。
ご相談は無料です。そのまま依頼しなくても大丈夫です。
繁忙期でもSNSを止めない回し方
収穫の時期は、投稿したいことが一番多くて、時間は一番ない。
ここは割り切ります。撮る時間と出す時間を分ける。朝の見回りのついでに写真を撮りためて、夜に10分だけ時間を取ってまとめて出す。文章は短くていい。
- よく使う文(注文の方法、発送の時期、直売所の曜日)をメモに保存しておく
- 繁忙期の前に、育つ途中の写真と食べ方の投稿を作りためておく
- 家族の誰かに撮影か投稿のどちらかを頼む
止めてしまうと、再開したときに見てくれる人が減っています。1週間に1回でも出し続けるほうが、次の旬につながる。
話は少しそれますが、店先に「とうもろこし あります」と張り紙を1枚出すだけの農家は、昔からどこの町にもあります。SNSは、あの張り紙を遠くの人にも届ける道具だと思っています。
最初の1か月でやること
最後に、手を付ける順番を並べておきます。
- 伸ばしたい売り方を1つ決める(直売所、観光農園、ネット直販、飲食店への取引)
- SNSを1つ選び、プロフィールに品目、産地、買える場所を書く
- 直売所や農園があれば、Googleビジネスプロフィールに登録する
- 育つ途中、収穫、食べ方、買える場所の4種類を1つずつ投稿する
- ネットで売るなら、特定商取引法の表示と送料を決める
- 繁忙期の前に、作りためる投稿を5本用意する
全部を一度にやらなくて大丈夫です。売り方を決めて、買える場所までの道を1本つなぐ。そこまでできれば、SNSで宣伝した分が注文として返ってくるようになります。
- 農家が集客に使うSNSは、どれから始めればいいですか?
- 写真で作物と畑を見せられるInstagramから始めるのがおすすめです。直売会や収穫体験の告知を近所の人に届けたいならFacebook、作業の様子を動画で見せるのが苦にならないならTikTokを足します。最初は1つに絞り、続けられる形ができてから増やしてください。
- SNSで宣伝しても、農産物が売れないのはなぜですか?
- 見た人が買う場所までたどり着けないことが多いからです。プロフィールに注文先のリンクや方法が書かれていない、注文をDMで受けていて返事が遅れる、といった状態では、興味を持った人が途中で離れます。SNSは宣伝、ネットショップや直売所は売る場所と役割を分け、その間の道を1本にしておきます。
- 農家がネットで野菜を売るとき、表示しないといけないことはありますか?
- ネットで注文を受けるのは特定商取引法の通信販売に当たり、販売価格と送料、支払いの時期と方法、引き渡しの時期、返品の扱い、事業者の氏名・住所・電話番号などを表示する必要があります。消費者庁の特定商取引法ガイドに一覧があります。
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